知られざる勇将・加藤嘉明が築いた松山城

【愛媛県・松山市 2025.9.29】
賤ヶ岳の七本槍と称された加藤姓の武将、といえば少しばかり歴史好きな方なら容易に加藤清正を思い浮かべるはずです。
ところが加藤姓の武将がもう一人います、加藤嘉明よしあき。といってもこの武将の名をフルネームで覚えている方はさぞかし少ないのではないでしょうか。

たしかに清正のことを知りたいと思って探せば、研究書、解説書、小説、コミックなどわんさかみつかります。一方の嘉明はというと、せいぜい近衛龍春氏の小説『加藤嘉明』くらいのもの。しかもこの小説には副題が付いていて「賤ヶ岳七本槍・知られざる勇将」- – – 著者からして有名ではありませんけどと断わっているのですから、有名でないことを保証?されたようなものでしょう。
(※清正に関しては、ほかにもその名を冠した地元の焼酎もあれば、蛇の目の家紋をデザインしたTシャツやらパーカーやら服飾品などもネットで売られています)

意外です。
嘉明の武功は賤ヶ岳以後をみても清正にけっして劣るものではなく、小牧長久手の戦い、四国攻め、九州平定、小田原征伐、さらに朝鮮出兵(文禄の役、慶長の役)と秀吉軍の一角を担いながら縦横無尽の働きをしています。
清正を有名にした「朝鮮での虎退治」の逸話がありますが、清正は虎を退治したのではなく獲物として狩りをしたというのが実情です。
秀吉は我が身は老いるものの未だ子宝に恵まれず、滋養強壮の妙薬として朝鮮に当時は生息した虎の肉を日本へ送るよう各武将に命じます。その秀吉の切望にこたえるべく武将たちはせっせと虎狩りをしたそうです。
ですから清正も虎を捕殺して肉(と皮)をおくり、同様に嘉明も虎(の肉と皮)をおくった記録があるそうです。
意外なのは、加藤嘉明は加藤清正に比してなんら遜色はないにもかかわらず、いまの時代に「知られざる勇将」として埋もれてしまったこと。

松山城

松山城の麓・三の丸(現・堀之内)は公園となっており、
ここは駐車駐輪場です。

加藤嘉明は文禄の役での武功により(けっして秀吉のもとへ送った虎肉が評価されたのではなく、朝鮮の名将・李舜臣とも互角に渡り合っています)、伊予・正木(現在の松前町)に加増転封されます。

秀吉の死後は石田三成に反発するいわゆる武断派のひとりとして徳川家康に取り込まれ、関ケ原の戦いでは東軍の先鋒として戦い、勝利。
その功績で加増をうけ伊予国の北半分を領する20万石の大名となり、あらたに勝山に居城を築きはじめます。それが松山城です。

石垣にそって登り、
城門にたどり着きます / 黒門跡
黒門跡にあった案内図より
虎口をぬけて
石段をのぼると、
槻門らしき遺構
槻とはケヤキの古名です。

二ノ丸

二ノ丸石垣上の櫓を見上げる
前方に太鼓櫓、ずっと先に小さく天守閣がみえる
戸無門(左)、筒井門(右)
筒井門、その右奥に隠門が文字通り隠れている
筒井門から二ノ丸へ
二ノ丸と本丸をへだてる石垣と櫓
櫓と櫓をつなぐ廊下は渡り櫓とよばれる

本丸

右端の太鼓門をぬけて本丸へ
太鼓櫓下から天守をのぞむ
右端は馬具櫓
南隅櫓(左)、紫竹門、小天守(その上)、大天守(その右)
石垣下から南隅櫓を見上げる
紫竹門から入る、正面が大天守

年表を追ってみると、1602年に松山城の築城を始めたものの、江戸城や駿府城の修改築に駆り出され、さらに大坂冬の陣・夏の陣でも戦場に立ち、築城工事はなかなか進まなかったようです。

そして25年後の1627年、名将・蒲生氏郷の跡をついだ忠郷に嫡子がなかったことから蒲生家は改易、ここ伊予に減転封され、かわりに加藤嘉明は会津へ40万石の加増転封されます。

天守から本丸、二ノ丸を見わたす

2倍の加増ですから喜ぶべきことではあるのですが、松山城はいまだ築城途中。ちょうどこの年に二ノ丸が完成し、連結天守が建造されたのはさらに8年後の1635年、家康の甥にあたる松平定行の時代というのですから、嘉明は松山城の全容を見ていないどころか、本人の意向がどこまで引き継がれたのかも疑問です。

傾斜地につくられる登り石垣、現存するものでは日本最大
県庁裏登城道から見ることができます

嘉明は会津へ移った4年後に亡くなります。享年68歳、しかも畳の上で死んだのですから大往生というべきでしょう。

ところが嫡男の明成が暗愚だったとも病弱だったとも伝わっていますが、そのためお家騒動がおこり大減封の改易、近江水口へ2万石で転封させられます。

街中にのこる堀越しに松山城(後方の山)をのぞむ
堀の向こうにあるのは巨大な土塁です

ところで伊予国の北半分を領する加藤嘉明に対して、南半分をほぼ同じ20万石で領するのが藤堂高虎でした。
明日はその高虎の居城であり名城として名高い宇和島城をたずねてみます。

【アクセス】伊予鉄・松山市駅から徒歩10分
【料金】天守入場料:520円、ロープウェイ・リフトで上がる場合は別途料金が要ります。
【満足度】★★★★☆