薬師寺の拝観料1600円は高すぎるか検証する

【奈良市 2023.6.10】
平安京(京都)にたいして平城京は南に位置するため、いまでも奈良のことを南都とよびますが、その南都において聖徳太子からはじまる、朝廷の仏教布教政策とその保護を受けて隆盛した仏教寺院7つをまとめて南都七大寺とよびます。法隆寺、東大寺、西大寺、薬師寺、大安寺、元興寺、興福寺と、錚々たる名が並びます。

今日はその中の薬師寺を訪ねてみるつもりなのですが、拝観料をネットで調べて仰天しました。
薬師寺の拝観料は、季節と特別公開の有無で変わるシステムですが、今回すべてを見るつもりでいたらセット価格で1600円になります。高い!

そもそも神社が全国どこでもほぼ無料なのにたいして、寺院は無料のところもあるが有料のところも多いです。その理由は、明治維新のさいにそれまで神も仏も一緒に崇拝されていたものを、きちんと分けて役割分担しましょうということに決まります。これが神仏分離令です。
そして神を崇める日本古来の神道(本来シンドウではなく、シントウと読みます)は国が管理する、それゆえ国民はこぞって神社へ参詣できるよう参拝料は無料。
(以前は神主は公務員のように国から給料をもらうなど国の管理だったようですが、いまは一切なくなり有名神社以外は兼業で維持しているそうです)
それにたいして寺院は宗派の違いこそあれ、すべて仏を敬う仏教であり、各々の寺院はそれぞれの自助努力でやっていきなさいということになります。そのかわり布施や賽銭には課税されないし、寺領には固定資産税もかからないという特権は残されます。

さて薬師寺ですが、仏教は仏教でも飛鳥時代にはじまる法相宗、これは人の死後のことを世話してくれるのではなく、いまを正しく生きてゆくには人はどうあるべきかを考える「学問仏教」です。ですから薬師寺には墓地がありません。檀家がいません。もちろん葬式も行いません(行えません)。
これは何を意味するか – – – 葬式(法事も)がないので布施が入りません。檀家がいないので護寺費(年会費のようなもの)も入りません。墓がないので供養料も入りません。
このナイナイずくしのなか、薬師寺はいかにして存続してきたのか、境内を拝観しながら見てゆきましょう。

與樂門から入る

食堂から西僧坊

近鉄西ノ京駅から薬師寺へ向かうと、與樂門(よらくもん)から伽藍へ入ることになります。
この與樂門は伽藍の北に位置し、言ってみれば裏門にあたりますが、(南側には正門にあたる南門および中門=仁王門がある)案内板にそってあるくと廻廊をつたい伽藍の外周をまわって中門へ案内してくれる仕組みになっています。むしろこのコースで拝観するのがお勧めです。

薬師三尊像が鎮座する台座のレプリカ

東僧坊の一部は売店、休憩所であり、さらに台座のレプリカなどを飾っています。これらは金堂で真作を見られるのですが、こうしてレプリカを飾っておくことで、間近で見られるだけでなく写真撮影もできるサービスであるようです。


薬師寺は現在の奈良市でいえばずいぶん西寄りに位置しますが、かつての平城京に置き換えてみると、朱雀大路からもほど近い、都の枢機的な場所にあったことがわかります。
西暦680年に天武天皇が、皇后の病気平癒の祈願で藤原京にて建立を発願しますが、良かったのか悪かったのか天武天皇のほうが先に亡くなり、かわりに病気が平癒した皇后が即位して持統天皇となり、その建築中の薬師寺を完成させます。
そして平城京への遷都とともにいまの場所に移築されたと以前には伝えられていましたが、最近の発掘・研究で建築様式はそのままにあらたに造営したようです。

廻廊をまわって中門へ

廻廊を南へと歩く。左は東院堂(堂内の聖観音立像が見事)
南面より / 西塔(左)と東塔(右)
中門

ここに至るまでにあった東院堂は、建物自体が国宝で、堂内では白鳳期の聖観音立像、鎌倉時代の四天王像などが見られます。

白鳳伽藍

金堂
大講堂(左奥)と金堂(右手前)
左から東塔、金堂、西塔 / 金堂裏面(大講堂前)より撮影

金堂を中心にその左右に二つの塔(東塔、西塔)が建つ。これはこの寺独自のもので、薬師寺式伽藍配置といわれています。

伽藍の内、金堂にある薬師三尊像と、大講堂にある弥勒三尊像は通常でも拝顔でき、今回は東塔、西塔の1階部分が特別開扉されて、そこにある「釈迦八相」の塑像群像を見ることができました。

左から金堂、東塔、西塔の屋根の一部

三重塔を見るとよく分かります。屋根が6枚ありますが、それぞれ下にある小振りの屋根は、本体の屋根を補強するための裳階(もこし)とよばれるものです。
よく見ると、左の金堂も建物としては2階建てですが、裳階があるため4階建てのようにも見えます。
これは大化の改新から平城京遷都までのあいだに花開いた白鳳文化を象徴する、建築上の特徴です。

左奥が西塔、手前が東塔

この薬師寺のなかでは、東塔のみが創建時からのこる建物、東院堂が鎌倉時代に再建されたもの。他はすべて幾多の戦の中で焼失してしまい、明治から昭和初期にかけては廃寺の様相でした。

大講堂

昭和42年(1967)、高田住職が管主につくと、薬師寺復興事業がスタートします。
葬式なし、墓なし、檀家なしでいかにして復興のための資金を集めるか。
高田管主は般若心経を人々に写経してもらい、その写経を薬師寺で永代預かるというかたちで、納経料 + 永代供養料として寄進を集めます。そのために全国の百貨店で写経をおこなうなどの活動をつづけ、ついに昭和51年、金堂再建さらに西塔、大講堂などを平成までかけて再建復興してゆきます。

玄奘三蔵院伽藍

與樂門を出て、道ひとつへだてた玄奘三蔵院伽藍へ
礼門から玄奘塔をみる
礼門から振り返り、白鳳伽藍をのぞむ

玄奘三蔵院伽藍は門から一歩入ると写真撮影禁止のため、掲載する画像がありません。
しかし伽藍内には、平山郁夫氏の手による全長49mの大唐西域壁画など、美術館で特別展をひとつ見たぐらいの体験ができます。

さて薬師寺の拝観料1600円が高すぎるか、検証してみましょう。
やはり他と比較してみるのがもっとも単純明快だと思いますので、思いつくままに他の例をあげます。
1)京都の東本願寺と西本願寺に両方入っても無料 ー むしろあれだけのものを見せてもらって無料とは申し訳ないと感じます。
2)京都の元離宮二条城 ー 入城料+二の丸御殿観覧料 1300円。元離宮二条城の建物は石垣をのぞいて大半が再建ですし、二の丸御殿の屏風絵や障壁画は見事ですが、すべてレプリカです。
(真作は宝物館にあり別料金、しかも期間限定公開のうえに全部を一度にみることはできない)
3)美術館 ー大方が1000円から2000円、日本で人気のフェルメール展は数点の展示で2000円を超えます。
4)映画館 ー 最近は2000円が主流になりつつある。
5)テーマパーク ー 関西ではUSJは別格として、ひらかたパークぐらいでも入園料1800円 これはアトラクションの料金は別です。東映太秦映画村は2400円。
こうして並べてみると、薬師寺の1600円はけっして高過ぎないようにも思えてきます。
(しかし、個人的には本願寺のように無料とは言いませんが、半分の800円ぐらい、さらにもう一声!と思ってしまいますが)

西ノ京を散策する

薬師寺南門の近くに休ヶ丘八幡宮があります
ここは薬師寺のかつての守護社です / 神社ゆえ無料
薬師寺を離れて北へあるくと垂仁天皇陵が

時間がまだあるので、もう一つぐらい寺を見に行こうかと思いながら薬師寺をあとにしました。
その薬師寺から北へ、徒歩10分ぐらいのところに唐招提寺があります。
しかしヘビー級(?)の薬師寺で3時間をすごし、さらにヘビー級の唐招提寺はシンドイなあと思い、やり過ごします。

喜光寺

その垂仁天皇陵をまわり、
さらに北へ歩くと喜光寺があります
喜光寺は薬師寺とおなじ法相宗の寺で、
行基上人の没した地だそうです
菅原天満宮

喜光寺を参拝して、それでは帰宅しようと駅に向かって歩きかけたところ、菅原天満宮がありました。
先日京都の御所横を歩いていたところひょっこり菅原院天満宮なる神社に出くわしましたが、状況はそっくり。しかも向こうはむこうで、菅原道真生誕の地で産湯をつかった井戸が云々と謳っていたのをはっきり覚えていますが、ここも同じことを謳っています。違いといえば、こちらは井戸ではなく、100mほどはなれたところにある池の水で産湯を使ったとか。
菅原道真公がどこで生まれようが個人的には大きな問題ではないので、両者の言い分を採用ということで、今日の見て歩きは終了とします。

【アクセス】近鉄西ノ京駅 ~ 薬師寺(南門をいったん出て休ヶ丘八幡宮へ)~ 崇仁天皇陵 ~ 喜光寺 ~ 菅原天満宮 ~ 近鉄西大寺駅 13000歩
【料金】薬師寺(白鳳伽藍、東塔西塔特別開扉、玄奘三蔵院伽藍)1600円、喜光寺500円
【満足度】★★★★☆