南北朝時代から関ヶ原後まで生き抜いた手取城

【和歌山県・日高郡日高川町 2024.1.1】

2024年最初の見て歩きはどこにしようかといろいろ考えたのですが、有名な神社仏閣は初詣でごった返しているであろうし、天守がのこる城や歴史資料館の類は元旦ということで休館していると思われるし、それならば山登りか山城しかない、加えて年始に尋常でない人出のところが近所にあると交通機関が混雑するのでそれらを避け、和歌山県の御坊市の東、日高郡日高川町にある手取城を訪ねてみることにしました。

吉田八幡神社

神社入口
吉田八幡神社

JR御坊駅からまずは道成寺に行くため歩いていたところ、20分ほどで神社の入り口が見えました。吉田八幡神社とあります。今年の初詣はここにしようと思います。
ところで初詣に行くなら神社か寺かどちらにすべきか。今年一年の安全、健康、幸運などなどを「神」に祈るのですから神社だと思っていたのですが、調べてみたところどちらでも良いそうです。
ただ、これからゆく道成寺は天台宗の寺で、先祖の菩提寺でもなければもちろん自身が天台宗の信徒でもなく、そこへ元旦の朝から10円の賽銭で祈願にゆくのも遠慮があります。
その点、八幡神にとくべつ信仰があるわけではありませんが、神道そのものが万物に神は宿るといっているのですから、どこの神社でもウェルカムしてくれるでしょう。

道成寺

道成寺・石段から仁王門

この石段には仕掛けがあって、階段脇の土手は上に行くほど幅広になるよう造られており、そのため遠近法を逆手にとった視覚効果により階段の勾配がゆるやかに見え、訪れた人をこころよく迎えてくれているそうです。
たしかに緩やかにみえますが、現実にこの階段は寺のものとしてはずいぶん緩やかです—「いっそう」緩やかに見えるということにして、ありがたく受け止めたいと思います。

仁王門
本堂
本堂(左)、三重塔(右)

この寺には「安珍と清姫の悲恋物語」が伝承として残っています。
大筋は、旅の途中に一夜の宿をもとめた僧・安珍に清姫が惚れて恋狂いしたあげく、身を引く安珍に裏切られたとおもった清姫は大蛇となって追いまわし、寺の鐘のなかにかくれた安珍を焼き殺したというのです。
それにしてもこの話、伝説であったにしても「悲恋」ではなくスリラーかオカルトの類ではないですか。

清姫でも安珍でもなく、本尊の千手観音に賽銭10円とともに手を合わせておきました。

手取城へ

日高川をわたり手取城へ向かいます
ミカンではなく、甘夏
いかにも山城が似合う田園風景
ここから手取城址登り口となっています
手取城案内板より

案内板によると、まっすぐに歩いてゆけば次々に見どころに出くわすということのようです。
さっそく登ってみます。

手取城

南北朝時代のころ、大和国の南部から日高川上流域を支配していた玉置氏がここに城を築き、その後もこの城を居城として支配を続けたようです。
秀吉の紀州侵攻にさいして、ここよりも西方いまの御坊駅近くに城をかまえその一帯を支配していた湯川氏は秀吉に対抗しますが、玉置氏は秀吉に従います。そのため両氏は敵対することになり、より勢力の大きい湯川氏が玉置氏を城から追いやり、秀吉と交戦状態に入ります。
秀吉方は地の利をいかして抵抗する湯川軍にてこずり和睦します。そして領地を安堵するのですが、その翌年に湯川氏の当主は急死(病死とされていますが、秀吉方の手による毒殺説が有力です)して領地は押収されます。一方の、秀吉方に付いたことから湯川氏に追いやられた玉置氏はこの手取城に返り咲いたということです。

道のりの前半はこんな林道を歩きます
ここから山城の遺構が点在します
さっそく目に入る堀の跡
竪堀の跡
溜池は草だらけで見えません
東の丸に着きました / ここの石垣については後ほど

二の丸、本丸

二の丸にはベンチがならび休憩所に
二の丸から本丸へ上がる
本丸には礎石か石垣跡か、石が散在
本丸の周囲には腰曲輪があります
本丸を支える側面にわずかに石垣跡が見られる

石垣はかつてあったことがわかるぐらいで良好な状態では残っていません。しかし下手に手を加えていないことには感謝です。

西の丸、のろし台

二の丸からのろし台(左)、西の丸(右)をのぞむ
巨大な堀切をこえて西の丸へ
西の丸の西端にある、のろし台
のろし台から西の丸、先の二の丸、本丸をのぞむ

東の丸の石垣

これが最初にみた石垣です
もうすこし近づいてみます
おなじ東の丸にのこる土塁と石垣跡

この山城跡を訪れた人が最初に目にする石垣はずいぶんと良好な状態で残されており、思わず目を奪われましたが、ずっと城跡をまわってみて他の場所での石垣は原型すらとどめていない状態でした。
おなじ東の丸にのこる石垣も同様、ここに石垣があったと認識するのがやっとといったところです。
すなわちこの良好にのこる石垣は、後世(昭和か平成か)になって(観光客用に)組みなおされたものだと思います。

和佐駅

JR和佐駅、もちろん無人駅

手取城は東の丸の石垣の疑惑に目をつぶれば十分楽しめるし、道成寺も悲恋をオカルト物語と考えればそれはそれで味があります。
道程もたのしく歩けたうえに、ゴールの和佐駅はなんとも可愛らしくて思わず写真撮影してしまいました。

【アクセス】JR御坊駅~吉田八幡神社~道成寺~手取城址~JR和佐駅 18000歩 / 4時間
【満足度】★★★★☆