奈良公園で梅をみて鹿とあそぶ

【奈良市 2024.2.28】
近鉄奈良駅から東へあるくとすぐに興福寺の堂宇が右手に見えてきます。それらをやり過ごしずっと東へあるくと春日大社にたどり着きますが、その「ずっと東へ」ひろがっているのが奈良公園です。
なぜ街中にこれほど大きな公園があるのかといえば、もとは興福寺の境内であったということです。さらに言えば、春日大社はもとは興福寺を守るための鎮守社ですから、ここも境内みたいなものです。
「境内都市」という表現があります。「宗教都市」にも近いのでしょうが、寺院や神社を中核として成立した都市のことをいい、門前町よりも規模がはるかに大きいだけでなく、政治的にもその地域を管轄している(支配している)のが特徴です。
鎌倉から室町時代にかけて、大和一国の荘園の大半はこの興福寺が領していました。大和の国には朝廷の権威も武家の威力も及ばず、すなわち興福寺の権勢がつよすぎて朝廷も幕府も守護を配することができなかったということになります。

もっとも今日はそんな興福寺の歴史探訪ではなく、たんに奈良公園で梅を観て、鹿と遊ぶつもりで電車に乗りました。

猿沢池から興福寺

猿沢池から興福寺の五重塔をみる

興福寺へは、南側の猿沢池からアプローチするのがおすすめです。
JR奈良駅からだとまっすぐ東へ歩くとここにたどり着きます。近鉄奈良駅からの場合はまっすぐ東へ行かず、いったん目のまえの商店街を南へすすみ、アーケードを抜けたところで左折するとここに出てきます。
ところでこの撮影をした場所の背中には、抜群のロケーションで「スタバ」があります。
外国人がコーヒーを飲みながらこの光景を眺めているのに比して、日本人がパソコンやスマホを見ながらコーヒーを飲んでいる光景には笑ってしまいました。

猿沢池をまわって

猿沢池を時計回りとは逆にまわると、この場所にでます。
この階段をあがって興福寺にいたるのがベストな選択です。(あくまで個人的な感想です)

現在、五重塔は修復中で下層部分は足場が組まれているためこれより先の写真は撮っていません。
また興福寺については以前にもブログに載せているので、今回は省きます。

奈良公園

奈良公園にて / 後方は奈良国立博物館

奈良公園といえば鹿ですが、この鹿はここで飼われているのではなく、野生動物であり国の天然記念物に指定されています。
餌(鹿せんべい)を手にしたまま鹿を焦らして頭突きをくらわされても、鹿が懲罰をくらうことはありません。
しかし頭突きの報復に蹴飛ばしたりすると人間は処罰されます。
そうです、ここの鹿たちは神が乗ってきた神聖な生き物であるだけでなく、天然記念物としても護られており、すくなくとも奈良公園では鹿の方が人間よりもエライのです。

鹿せんべいを出すとすぐに集まってくる
気性の荒いところもあり先方争いも見られる
首を上下にふる動きが催促しているようで、
黒い大きな瞳が哀訴しているようで、

梅林

梅林は満開間近でした。
梅は桜にくらべて開花日数がずいぶん長いので、3月後半まではじゅうぶんに楽しめるものと思います。

元興寺

左がんごうじ、右こうふくじ

興福寺から南へ1kmほどの元興寺(がんごうじ)を訪ねてみます。

興福寺は藤原不比等(ふじわらふひと)がひらいた藤原氏の氏寺です。藤原氏は不比等のときに最初の黄金期をむかえていますが、その後も天皇家と姻戚関係をむすびながら絶大な勢力を誇り、それとともに興福寺も隆盛をきわめます。
一方元興寺はもと飛鳥にあった法興寺が前身で、蘇我馬子(そがのうまこ)がひらいた蘇我家の氏寺です。
蘇我家といえば、大化の改新において馬子の息子と孫にあたる蝦夷(えみし)と入鹿(いるか)が暗殺され没落しますが、その暗殺劇を裏であやつっていたのが中臣鎌足(たかとみのかまたり)、のちの藤原鎌足であり藤原氏の始祖です。
見るまでもなく、興福寺とは対照的に元興寺が衰退していることは明らかでしょうが、それでも一度は自分の目で見ておくべきと考えました。

東門より極楽堂(本堂)をのぞむ
禅室から本堂、手前は石仏群
境内にならぶ石仏群
禅室東側と本堂西側の瓦は創建当時のもの、とか

元興寺は法輪館内に収納されている仏像類をのぞけば、見るものといってこれだけです。
元興寺は創建当初は興福寺には及ばないものの、大刹とよべるものでした。これほどに衰退したのは、もちろん蘇我氏が事実上消滅したのが第一の理由ですが、宗派でいうと律宗の寺であったこともおおいに関係していることでしょう。
律宗について書くと長くなるのでここでは省きますが、以下の数字を見てください。
日本国内の宗派で信徒数と寺院数がもっとも多いのは浄土真宗で、本願寺派が780万人、10473寺、大谷派が730万人、8860寺。
それに比して律宗は、2万人、26寺。
宗教とて信仰の篤さではなく、数がものをいう。

【アクセス】JR奈良駅~興福寺~奈良公園~元興寺~奈良駅
【拝観料】元興寺:500円
【満足度】★★★★☆