松阪牛はなぜ高いのか、松坂城で考えた

【三重県、松阪市 2024.3.21】
まずさきに書いておきます。三重県の松阪市は「まつざかし」ではなく「まつさかし」と読みます。そこにある城は、大阪市にある城が大坂城であるように、松阪市にある松坂城とかいて「まつさかじょう」と読みます。
ちなみに私の世代に親しみのある女優の松坂慶子も元プロ野球選手の松坂大輔も、名前と顔の一致しない松坂桃李も「まつざか」です。ちなみにのあとは文字どおり余談ですが。

さて松坂城ですが、織田信長に早くからその才を認められていた蒲生氏郷により築城されました。
蒲生氏郷は信長の死後は秀吉に重用され、現在の滋賀県日野町にわずかに遺構がのこる日野城からここ松阪(当時は松坂)に12万石で転封されます。当初は海沿いの、信長の次男・信雄が築いた松ヶ島城に入りますが、使い勝手が悪かったのかすぐに移転を決め、あらたに松坂城をつくります。
この松坂城は日本百名城にも選定されているものの、築城主の蒲生氏郷がクセもなくアクもないあまりに優等生然としているためとんと興味を覚えず、いまのいままで訪ねることもありませんでした。

松阪といえば松阪牛

JR松阪駅前にあるマンホール蓋

JR松阪駅をでたところで、さっそく牛のマンホール蓋を発見しました。
時間は正午過ぎ、ふと松阪牛がたべたい、と思いました。

松坂城までは駅から歩いて15分ほどですが、途中に松阪牛料理で有名な店があります。
ためしに、と思って通りすがりに店前のメニューブックをのぞいてみました。
昼食なら「円3ケタ」が予算ですが、「円4ケタ」すらありません。
思わず足早に立ち去りました。

松坂城

御城番屋敷と土蔵
裏門前の常夜灯
松坂城郭内の案内板より
逆に裏門入口より常夜灯をみる 
なぜか裏門の方が立派なのでここから入ります
裏門の虎口 / 手すりはなかったものとして見てください
二の丸より本丸の石垣を見上げる
本丸へ上がる
本丸にのこる遺構
天守台
天守台には石棺の蓋(中央)も使われている
本丸にのこる遺構
本丸につくられた梅林

松坂城は遺構がよく整備されて美しくはあるのですが、思わず見入るようなものがありません。
よく言えば首を捻るようなものがなく、悪くいえば個性がなく、なにやらマニュアル通りにつくったかのような印象です。これはやはり築城した蒲生氏郷の優等生的な性格が反映されたものなのでしょうか。
落胆はしませんが、興奮もしません。
※最下段に松坂城の石垣ばかり撮影した写真を掲載しています。

松坂城を歩きながら、ついついなぜ松坂牛は高いのかと考えてしまいました。(以下の比率はおよそです)
1)日本でうまれ育った牛と、海外でうまれたものでもその後日本での飼育期間がより長い牛を国産牛とよび、海外で飼育加工されたものを輸入牛と呼びます。現在日本国内で消費される比率は国産牛35%、輸入牛65%ですが、年々その比率は輸入牛の方が高くなっています。
注目すべきは輸入牛の比率が継続的に高くなっている理由で、単純に輸入牛の方が安いから消費が多いのではなく、外国人観光客の急増と日本食ブームで国産牛の需要が高まるのにたいして、国内での飼育業者は急減しており供給のほうは減る一方。すなわち、国産牛は手に入りにくい → 値段がいっそう上がる → 仕方がないので輸入牛をつかう、というパターンになります。

2)国産牛は大きく次の3つに分けられます。
和牛(肉食用に国内で出産・飼育しているもの)黒毛和牛がほとんどで比率は40%、
ホルスタイン種(乳牛として育てられたものを食用とする)いわゆるホルスタイン牛で比率は45%、
交雑牛種(黒毛和牛✕ホルスタインをはじめ、抵抗力のつよい牛をより低コストで育てることを目的とする)比率は15%。
松阪牛は言うまでもなく和牛にふくまれ、日本で流通する牛肉のうちでもその和牛は35%✕40%=14%にすぎません。

3)農林水産省のホームページによると、和牛の銘柄(ブランド)は全国に320種以上あるそうです。もちろん農林水産省の報告ですから、どのブランドが最良だとかのランク付けはありません。
一般的には、「三大ブランド牛」として、「松阪牛、神戸牛、近江牛」あるいは「松阪牛、神戸牛、米沢牛」があげられています。3番目の近江牛と米沢牛は入れ替わっていることがありますが、松阪牛がトップにあるのは不動のようです。

4)松阪牛の定義を見てみます。
※松阪牛は繁殖には用いられません。但馬(兵庫県)を中心に宮崎県、鹿児島県などから松阪牛として育てるに適した雌の仔牛を購入します。ただしその仔牛は生後12か月未満で、すくなくとも月齢12か月までに三重県の松阪市周辺(飼育する地域も限定されている)に移入し、月齢30か月かそれ以上になるまでその決められた地域内で飼育される。
なお雌限定であるだけでなく、未経産(出産経験がない)ことも必須条件になります。
※松阪牛個体識別管理システムに登録する。出生から松阪への移動まですべてのデータが記録され、さらに耳に個体番号を記した札がつけられ、他の牛が混入したり入れ替わったりすることがないよう徹底した管理が行われる。

5)松阪牛がなぜおいしいと感じられるかといえば、未経産の雌牛のため肉が柔らかいことにくわえ、肉のなかにふくまれる不飽和脂肪酸なるものが突出して多く、この不飽和脂肪酸が多いと肉の脂肪が低温で溶け出し(融点がひくい)口のなかに肉のうまみが、よくいわれるところの「じゅわっと」ひろがるわけです。

6)では不飽和脂肪酸を多くするにはどうするかといえば、より長く手元において飼育すること。すなわち飼育期間が長くなるということで、飼育経費はよりかさみます。
またストレスを与えないよう牛同士隔離した半個室で育てる、散歩をさせる、マッサージをしてやる、あるいは俗に言われるように、食欲をますためにビールを飲ませるとか、肉質をよくするため焼酎でマッサージすることなども現実に行われれているようです。

それでは松阪牛はいくらぐらいで取引されるのでしょうか。
松阪市内で毎年行われる品評会では、第一位になった牛が3000万円で購入されたというニュースを見ましたが、それは特別として一般の出荷価格はいくらなのか、これは調べたかぎりでは正確なところがわからないのですが、一般的な和牛の一頭買い価格が200万円程度、松阪牛の肉の小売価格が一般和牛のそれの2.5倍程度であることを考えると500万円。これは大きく外れていないように思います。
ちなみに和牛の出荷時の体重はおよそ700kg、そのうち300kgが食用になります。

そして精肉店で売られる松坂牛の小売価格(消費者価格)はというと、部位別におよその価格を列記します。
肩、胸、バラ(焼き肉用)2000円 、ロース、肩ロース(すき焼き、しゃぶしゃぶ用)3000円、サーロイン(ステーキ用)4000円、フィレ 5000円
我が家の家計からすると1kgあたりの値段かと思ったのですが、これは100gあたりの値段です。たっか~い !!!

これこそが松阪牛のブランド力であり、このブランド力を保つためには金銭だけでは表わせない労力が注がれているということなのでしょう、か。

松坂城の石垣

【アクセス】JR松阪駅より徒歩15分
【満足度】★★★☆☆